インタビュー:瀬上製材所 瀬上晃彦

Interview
VOL.2
瀨上 晃彦
瀨上製材所

インタビューVOL.2 - 建材に不適とされた北海道産カラマツが生まれ変わった、その舞台裏

インタビュー:瀬上製材所 瀬上晃彦
北海道は、木造建築の歴史が深いフィールドではありません。 スギ・ヒノキが自生するわけではなく、植林された森であっても木の手入れは不十分。 特に、カサシマ工務舎が用いるカラマツは、かつて建材には向かないとされ敬遠された樹木でした。 しかし、北海道の製材シーンが今、変貌を遂げています。 北海道の木を見続けてきた瀬上晃彦が語る、カサシマ・バックグラウンド。
瀬上製材所がカサシマ工務舎に卸している樹木、その基本を教えてください。
十勝管内で採れたカラマツと、トドマツを卸しています。

製材になった時、枝は少ないのがベターです。 成長が早すぎるものだと強度に問題があるため、建築用の部材はきちんと整備がされた森で、年数が経ったもの。 40~50年程度の木が好ましいですね。

部材のとり方は様々で、柱に多く使われる芯持材(年輪の中心があるもの)は25~30年の木でも十分とれます。 しかし、芯去材を使う場合は別。梁材などはかなりの太さがないと使えず、この部材が使えるには40~50年の時間が要るんです。

カラマツはかなり強度があるため柱・梁に使うことができる一方、トドマツは軟らかく軽い。 そこで、こちらは建具制作に向いた樹木です。
植林地から、コンディションのよい柱向きのカラマツがしばしば見つかる。 瀬上代表はこんな木を〝奇跡のような木〟と呼ぶ。
スギ・ヒノキといった優れた木が本州にあるのに比べ、 北海道の木はそこまでのネームブランドがないような気がします。 「北海道の木」の実情って、どうなんですか。
実は、カラマツはもともと北海道の木ではなく、目的も建築用ではないんですよ。
えっ? そうなんですか。
そう。カラマツは、かつて炭鉱が栄えた時代にトンネルの崩れを防止するために選ばれた素材でした。 長野県から昭和30年代に、北海道に移植された木です。 北海道産のトドマツ・エゾマツは強度が足りないため、成長が早く一定の強度があるカラマツに脚光が当たったわけです。

一時期、大量に植林されたカラマツですが、 石炭→石油へのエネルギー転換が起こったために行き場を失いました。 このカラマツをどのように使っていくか、がテーマ。 梱包材やパレットにするにはあまりにもったいない。 建築用部材として使える樹齢の経った木が存在しています。

歴史の深い本州では、スギやヒノキが建築用として育てられており、枝払いなどの手入れがされています。 炭鉱用だったカラマツはそうシンプルではありませんが、しっかりと手入れがされ、年数も経過している奇跡のような木もあります。 そういった木を選んで製材し、建築用として利用しているんですよ。
家づくりの歴史が浅い北海道では、木材生産も進化途中。 こだわりの、Made in Hokkaidoの家を一軒でも増やしたい。 大工と製材、二つの現場で切磋琢磨が続いている。
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瀬上さんと笠島さん、お二人が今〝道産〟の木にこだわる理由とは。
日本で最高級レベルの建築用部材だったヒノキは、今、値段が1/4、1/5にまで値段が下がってしまっています。 背景にあるのは〝家の建て方〟が変わったこと。

以前の日本の家の建て方は「真壁」。家を守る梁や柱を見せる構造でした。 お父さんを〝一家の大黒柱〟なんて呼んだのも、家と深い関係があったんですよね。 一番太く、重要なパーツである大黒柱も丸見えの、ミスが効かない構造で建てられていたんです。

でも、今の主流は「大壁」。柱をクロスで隠して建てる手法に変わっているため、 中の部材は〝どうでもよくなってしまった〟んです。
なんだか、悲しくも思える流れですが。
そう。ヒノキの値段が極端に下がっているのも、ここに理由があるの。 見えないなら、部材は別にヒノキじゃなくてもなんでもいい。 実際、本州資本の建築メーカーは、海外の安い木材を使ってバンバン家を建てる量産型です。

でも、カサシマ工務舎さんのようなブランド。 100棟、200棟の世界ではなく多くとも建てられて20棟という地元密着型のブランドは、強いこだわりをもっています。 自分たちが携われる貴重な家づくりですから、その素材や詳細にこだわるのは当然のこと。 プレカット(コンピュータによって自動的に採寸・カットを行う手法)ではなくて、 大工さんが実際に一本いっぽん木を見て、柱の向きを決め、手刻みで採寸を行なっています。

確かな技術を持った大工さん自体が減っている時代。 彼らが木と技術にこだわるなら、その想いについていきたい、と思うんですよね。
北欧から取り寄せた大型の機械を用いて1本いっぽん木を選別する。 このような設備を整えた製材所は、北海道では稀有な存在。
瀬上製材所で扱う木材の量は1日/250万立方メートル(大型の10トントラック10台分)。 年間では6万立方メートルに及ぶ。しかし、建材として使用できるのは、この中のわずか2%。非常に貴重な素材なのだ。
カラマツという木に難しさはないんですか。
ありますよ。カラマツでいえば、ねじれ、松ヤニ、水分。 すべての樹木が持っている課題なんですが、 特にカラマツという木は成長する際に旋回しながら螺旋状に育つ傾向が顕著です。 ねじれた柱を使うわけにはいかない。

北海道のカラマツは建築用に育てられていないこともあり、 年数が経過していても、部材としては向かないとされていました。
もう少し詳しく教えてください。
一見、まっすぐに思える木でもねじれは起きています。特に、北海道の暮らしは独特。 北海道の家は、僕もそうなんだけど、真冬でもTシャツでいられるほど暖房を使います。 そこで、芯から乾いていない木を部材として使うと、建造後にねじれ・割れが発生しやすいんですね。 だから部材が見えない大壁ならばまだしも、真壁の家でカラマツを使うのは難しいことなんです。
ねじれが起きやすいカラマツという素材を変えたのは、乾燥技術の進化だった。
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その課題を、どう解消したのですか。
木には、初期含水率というものがあります。 表面は乾いているように見えても、中の方は水分がたっぷり含まれている。 内部に25~30%もの水分が残っていると、ねじれ・割れといった問題が発生します。

この課題を解消する「コアドライ」という乾燥手法を、旭川の林産試験場が考案しました。 表面だけでなく、中の水分(仮道管の水分)を約3週間かけて11%まで乾燥させることで、 北海道産のカラマツは建築用の部材として十分に使える素材に進化しました。
かなり手間暇がかかった素材なのですね。
含水率は15%くらいまでは一気に、2週間くらいで抜けるんです。 でも、そこからがなかなか抜けない。最後の1週間でじわじわと残り数%を抜いていきます。

しかし、含水率11%の「コアドライ」を実際に使った大工さんの一部から「もう少しだけ湿りのある木を」という声をもらいました。 あまりに木が乾いていると、脆さも感じるようなんですね。木材の繊維に〝粘り〟がないと怖い。 この辺りは職人さんだけが分かる微妙な感覚ですが、彼らの声をベースに、 瀬上製材所では含水率13%の「ドリームラーチ」というオリジナルの部材をつくり、使ってもらっています。

ねじれ・割れを防ぐギリギリのラインは13%。 ここに僕はこだわりを持って、カラマツを卸しています。
約3週間かけて、木材を芯から乾かしていく。 この工程と手間暇がなければ、北海道のカラマツが建材として活躍する日はこなかった。
強さと粘りを兼ね備えた瀬上製材所のブランド木材「ドリームラーチ」。瀬上のブランドアイコンが、その品質の証。
ありがとうございます。職人集団であるカサシマ工務舎と瀬上製材所、両方の興味深いお話を聞くことができました。
いや……(笑)。実は、僕、笠島さんに「ウチの木使ってよ」ってだいぶん前に営業かけにいったの。 だけど、その時は別の製材所とお付き合いがあるからって、残念ながらお仕事には繋がらなかったんですよ。

でも、僕、あの人の話聞いてるのが好きなのね。面白いでしょ、あの人の話(笑)。 だから、札幌行く度にご飯食べに行ってね。 そしたら、ひょんなことからウチの部材を使ってもらえるようになってた。人の繋がりって、面白いものですよね。